初恋プーサン*甘いね、唇
杏奈ちゃんは、彼が初めて朗読会に来たときから参加している。
以前は、たまにお母さんと来館しては、あてもなくウロウロしているだけの子だったのに。
彼女は、誰がどう見ても彼に好意を抱いていた。
私が見こんだ人を好きになるなんて、敵(一方的視点での)ながら見る目はたしか。
だからこそ、うかうかしていられない。
いくら彼でも子供と付き合うことはないとは思うけれど、あんな可愛い子(全体的にふっくらで、マヨネーズの容器みたいな輪郭をした女の子)ならありえないことはない。
今はよきお兄さんでいても、『20年後に結婚してくれる?』なんて約束が交わされないとも言い切れない。
当時から子供が好きで、思いやりと責任感のある彼だからこそ、告白を20年間胸に秘め続け、完熟した大人の杏奈ちゃんと、見事に結ばれてしまうかも。
そうなったら……もしそうなってしまったら。
「雛子、聞いてる?」
不意に声がして、私はやっと我に返った。
「あ、うん」
「あ、うんじゃないってば。アンタまた妄想してた?」
「別に妄想なんて――」
「ありえないことだって『もしかしたら』とか思う悪癖があるじゃない。今だって、おおかた杏奈ちゃんと彼が、先々どうにかなったら、なんて考えてたんじゃない?」