初恋プーサン*甘いね、唇
。・*○*
「はあ」
開館後、私と美咲はカウンターでいくつか連続で貸出や返却業務をこなした。
途中にレファレンスを終えたところでカウンターへ戻ると、美咲は「あら」と言った。
「アンタ、待望の土曜日なのに元気なくない?」
先週の歯切れの悪い消化不良な彼との会話と、奮起の処方を間違えた副作用で、正直に言って待望というよりは絶望に近い心境だった。
『来週、デートに誘われるかもしれないんだから』
そんな美咲の言葉が唯一の救いだったはずなのに、皮肉にもそれがさらなる緊張の種になっている始末。
自分のネガティブさが、本当に憎たらしかった。
花粉症のときに鼻をもいで洗いたいと思うように、心をもぎとって新品にできればと何度思ったことだろう。
――あんなこといいな、できたらいいな。
そんなフレーズが、暗い頭で陽気に鳴った。
「他人事だから、能天気でいられるのよ」
私はスツールに腰をかけながら吐き捨てた。
「大体、アンタがリコリスグーラミィ以上に臆病だから、好きな人と会える貴重な日にため息なんかついてんでしょ」
美咲は私の真似をするように、大仰に息を吐く。
「熱帯魚の例えは度合いの見極め難しいって」
「そうかなー?」