ここでキスして。
「お母さんたちも、たまには東京に遊びに来ればいいのよ。銀座に行ってみたいなんて言ってたじゃない。おいしいレストランの研究にだってなるかもしれないわ」
「これからお店をオープンさせる忙しい時期に無理よ。手伝ってくれる人員が減っちゃったんだから」
いやみを言われてしまい、肩を竦める。
「まあ、かわいい子には旅をさせろっていうものね。新幹線は何時? 遅くならないうちに行きなさい。涼介と花緒にも会ったら言っておいてちょうだい。たまには帰って顔を見せてって」
「うん、わかったわ」
花梨は今度こそ「いってきます」と家を出た。
仙台駅を前にして、一度だけ振り返る。ペデストリアンデッキから見えるファッションビル、バスやタクシーのロータリー。なんとなく名残り惜しくなるのは、生まれ育ったこの街が好きだからだ。
とくにこの先、杜の都と呼ばれるのに相応しい定禅寺通りのケヤキ並木が、とても好きだった。クリスマスの頃になると「光のページェント」が催され、毎年、訪れていたものだ 。
〝彼〟とも、よく一緒に歩いた――。
花梨は、ある人物を想い出して、胸が詰まった。
高校の時から、とても好きだった二歳年上の彼のことだ。