ここでキスして。

当時、姉と付き合っていた彼に、花梨はずっと片想いをしていた。振り向いてもらえないとわかっていても、とても好きだった。

姉が就職して東京へ出て行くことが決まった日、姉と彼は別れを選んだ。

花梨はそれからも妹のような存在として彼の傍にずっといた。告白することもなければ姉とのことを触れることもなく、とにかく自分と一緒にいることで元気になってもらえるように明るく振る舞ってきた。

次第に彼に笑顔が戻ってくると花梨はうれしくて、二人でいる時間がこれからもずっと続いていけたらいいのにと思うようになった。

ところが翌年、今度は彼が就職を決めて東京に行くことが決まり、花梨は東京にいる姉のことを思い浮かべて不安になってしまった。まだ彼は姉を想っている。東京にいったらよりを戻すかもしれない。そう思ったらたまらない気持ちになったのだ。

クリスマスの夜、仲間同士で楽しく過ごしていたのもつかの間、送ってくれた帰り道、彼と離れてしまう寂しさから、とっさに『最後でいいから、抱いてほしい』と引き留めた。

ふたりきりの部屋で彼はやさしく抱いてくれたけれど、互いの心は満たされなかった。それは彼が本気で好きじゃないから。傍にいた花梨の気持ちをむげにできず、受け止めてくれただけにすぎないのだ。

忘れられないならそれでもいいから傍にいたいと願った。けれど、彼から告げられた言葉は……。

『ごめんな……君がよくても俺がだめだ。こんな中途半端な気持ちで、花梨とは付き合えない』

本当のさよならになってしまった。
最後だなんて言って困らせなければよかった。そんなことを言ったら余計に彼を困らせて傷つけるだけだったのに。そうしたくないからずっと明るく傍にいたかったのに。

こんなことなら「また地元に戻ってきたら会おうね」と笑顔で見送ればよかった。
でも、言えなかった。本当に大好きだったから、もう限界だったのだ。
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