有馬さんは宇宙人
この日から、有馬さんは必ずここに居た。
俺だって別に毎日裏庭へ来るわけじゃない。それに、時間帯だってバラバラだ。まあ、日が射す時間帯に限るけど。
それでも、俺がここに来ると必ず有馬さんは居るのだ。
「寝てるの?」
「寝てなどいない、少し目を瞑っていただけだ」
校舎の白い壁にもたれ掛かり瞼を下ろしていた有馬さんに声をかければ、すぐに色素の薄い瞳が現れる。
有馬さんの首には、何日か前からマフラーが巻かれるようになった。俺が教えたのは記憶に新しい。
惜しみなく白い足を出してるから宇宙人は寒さを感じないのかと思ってたけど、そうでもないらしい。
出会った頃よりもめっきり寒くなったが、俺も相変わらずここに来てしまう。
何故、かなんて考えるのも面倒だ。
「ここの陽射しは心地好いな」
「春はもっと気持ちいいよ」
今は寒いけど、春は本当に快適な場所なのだ。そう言って、有馬さんの隣に腰かける。
有馬さんは何も答えずに、また目を閉じた。冷たい風が銀の髪を揺らす。目のふちを象る睫毛までもが白く、まるで造り物のようだ。
しばらくして伏せ目がちに開いた瞼。揺れる睫毛。
「人間とは難しく、非常に面倒臭い生き物だ」
その横顔が、妙に美しかった。