甘い旋律で狂わせて
***

「花音。とうとう気持ちが固まったんですって?」


リビングのソファに寝そべるあたしに、声をかけたのはお母さんだった。



「あれ……あたし、言ったっけ?」


お母さんはキッチンで夕食の準備をしながら、嬉しそうにあたしの方を見た。


「悠貴くんのお母さまから連絡があったのよ。一度顔合わせはしたけれど、もう一度正式に食事会をしましょうかって……」


嬉しそうにそう言うお母さんを見ていると、胸が少し痛くなった。


「そうなんだ……」


まるで他人事のように返事をして、あたしはファッション雑誌を広げた。



「もうあなたも25だものね。ちょうどいいタイミングだと思うわ」



お母さんはあたしの結婚を心から喜んでくれているみたいだった。


だからこそ、なんとなく胸が痛い……。




「ねえ、花音」


返事のないあたしを不思議に思ったのか、お母さんは手をとめてあたしの隣に来た。

そして、ゆっくりとソファに腰をかけ、寝そべるあたしの顔を覗きこんだ。


< 11 / 593 >

この作品をシェア

pagetop