甘い旋律で狂わせて
そっと指を鍵盤に置く。


何年振りかの感触に、背筋がピンと伸びた。


とても、久しぶりな鍵盤の感触……。


深呼吸を一度してから、あたしは指を動かした。



さっきまでネオが奏でていたメロディーを、目を閉じながら紡いでゆく。


だけど、おぼつかない指の動きに、あたしは思わず指を止めた。



「どうして止めるの?」


ネオは不思議そうな表情で、あたしの隣に立った。


「もう、何年もピアノから遠ざかってるから、全然弾けないや。それに、あたしは落ちこぼれ音大生だったからね」


苦笑いしながら言って、イスから腰を浮かしたその時だった。


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