甘い旋律で狂わせて
パッヘルベルのカノン。
いつの日か、永都先生があたしに選んでくれた曲。
“花音にぴったりだから”
先生はそう言って、優しい目であたしを見つめてくれた。
その音色の心地よさに、あたしは何度も何度も練習したんだ。
先生は、あたしの弾くカノンを聴いてくれることはなかったけれど……。
“花が咲いていくように、重なっていく旋律が、おまえのイメージにあってる”
先生がそう言って、あたしの名を呼んでくれたこと
その響きを今でも忘れられない。