甘い旋律で狂わせて
「ああ。僕はただあの船の上やバーで弾いてるだけだから」


その言葉に、あたしは不満げに首を傾げた。



「コンクールとかに出たりしないの?」


「そういうの、興味がないんだ」



ネオは軽く受け流すように答え、あたしの髪を指に巻きつけながら遊んでいる。



「どうして?なぜもっと高みを目指さないの?」



ネオのピアノは、こんなあたしが聴いてもアマチュアの域を超えてると思った。


こんな場所で埋もれていることに、どうしても納得がいかない。


それほどに、ネオの音色は人を惹きつけ、魅了するものだった。




「僕にとって、ピアノは自分を高めるためのものじゃない」


突然ネオの口から漏れた言葉に、ハッと息がつまった。


< 137 / 593 >

この作品をシェア

pagetop