甘い旋律で狂わせて
「キミは出会うたびに、いつもそうやって泣きそうな顔をしてた」


ネオの指先が、そっとあたしの顔の輪郭をなぞっていく。


「いつも、何かを諦めたような顔だった。心をなくしたような、空っぽの表情で。助けを求めているように、思えたんだ」



あたし、そんな顔していたの?


そんなふうに、見えたの?



「だけど、僕のピアノを聴いて、涙を流してくれた。あの美しい涙を、忘れられなかった」



初めて、あなたと出会った日。


船上で、あなたはラ・カンパネラを弾いてくれた。



その音色があまりに懐かしくて

あたしはあの時、永都先生を想って泣いたんだ。


ネオの音色が、先生そのものだったから。


< 187 / 593 >

この作品をシェア

pagetop