甘い旋律で狂わせて
***

ふらふらとした足取りで家へ帰れば、玄関までおいしそうな夕食の匂いが漂っていた。


あたしはリビングには寄らずに、自分の部屋へと向かった。



とにかく早く、体を休めたかった。



昨日は悠貴の部屋で目覚めて、そのまま会社に向かった。


何があっても仕事は休みたくはなかったから。



だけど、引き裂かれた心と体が、もう立っていられないほどに重い。



ジャケットを着たまま、ベッドに体を投げた。



その時………


コンコン――



「花音、帰ってるの?」



お母さんの声に、あたしは勢いよく体を起こした。



「あ、うん!今帰ったところ。入っていいよ」


鏡を見て必死に笑顔を作り、お母さんを部屋に招き入れた。

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