甘い旋律で狂わせて
ホテルのロビーへと続く赤い絨毯の上を、履きなれない草履で小走りに駆けた。



「花音!待てよ!」



ロビーに差しかかった時、急いで走り去ろうとするあたしの背後から悠貴の声がした。



「ふざけんなよ!勝手に破棄なんて……」


振り返るとすぐに、悠貴の手があたしの腕を掴んだ。



「どうなるかわかってんだろうな?」


「あたしはあなたを愛していないの」



はっきりとした口調で、悠貴に言った。


こんなふうに悠貴に意見したのは、初めてかもしれない。

あたしはいつだって自分の心の内を明かさず、頷いてばかりの女だったから。

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