甘い旋律で狂わせて
「あなたは彼じゃなくて、いつもどこか違う方を見ていた。家でもほとんど悠貴さんのことを話さなかったし。全然楽しそうじゃなかった。お母さんが彼のことを聞いてもうわの空だったじゃない」


「お母さん……」


お母さん、そんなふうにあたしのことを見てたの?



「あなたはいつも、違う誰かのことを考えてたでしょう?」


優しい表情で静かに言ったお母さんの言葉に、心の奥が熱くなった。



込み上げてくるのは、5年前のあの日のこと。



想っていた“違う誰か”


それは……



「お母さん、あたし……」


「言わないでもわかってるわ」


お母さんは隣に来て、そっと寄り添うようにあたしの肩を抱いてくれた。



「先生のことが、忘れられなかったのね」


その優しい声が胸に染みて、涙が溢れ出そうになる。

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