甘い旋律で狂わせて
やがて船は動き出し、ウェイトレスがコース料理を運んできた。


「のちほどピアノの生演奏がございます。よろしければリクエストも承りますので」


ウェイトレスがそう言って、丁寧に頭を下げた。



生演奏か……。

久しぶりだなぁ。



豪華なコース料理を口に含みながら、あたしはしばらく海を眺めていた。


港が遠くに見えるようになるにつれ、空はだんだんと暗くなっていく。


船を揺らす穏やかな波の心地よさを感じながら、あたしはそっとナイフを皿に置いた。



……その時だった。
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