甘い旋律で狂わせて
あたしは店の中央にある眠ったピアノを眺めながら呟いた。


「ネオのピアノって、本当にすごいよね」


あたしの言葉に、玲さんも深く頷いた。


「たしかにね。ここで弾くのはもったいない。プロ並みだよ」


「そうでしょう?でもネオはそれで満足だって言ってた。コンクールとかに出たりとか、そういうのに全く興味がないみたい」


ひとりごとのように口数の多くなったあたしの話を、玲さんは静かに黙って聞いていた。


「もっと高みを目指さないのって聞いたけど、それはネオにとっての音楽のあり方じゃないんだって。あたしはそんなネオがすごく素敵だと思ったけれど。正直、もったいない気がするの。ネオのピアノをもっとたくさんの人の耳に届けられたらいいのになって」


そう思ってしまうのは、ネオのピアノと永都先生のピアノが同じ音色だったからだろうと思う。


あたしは少なからず比べていた。

先生ならこうしたんじゃないかって。


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