甘い旋律で狂わせて
「ゆっくり知っていけばいいんだよ」


玲さんはあたしを励ますように、そう言ってくれた。


そして、少し考えたように、目をピアノの方へ向けて言葉を続けた。



「ひとつ言えることは、ネオは極端に光を避けたがるところがあるよ」


「光を、避けたがる…?」


「何ていうかなぁ……華やかな表舞台を嫌がってるような感じ」



玲さんは言葉を選ぶように、ゆっくりと言った。



「どこか頑なに、影を好んでいる気がするよ」


「影、を……」


それだけ言ってまたグラスを拭き始めた玲さんに、あたしはそれ以上聞き返すことができなかった。




――その時のあたしには、玲さんの言っている言葉の意味が今ひとつよくわからなくて、ただぼんやりと黙り込んだピアノを眺めているだけだった。
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