甘い旋律で狂わせて
照明が落とされたフロアの入口から、黒いスーツを纏う人影が現れた。



ゆっくりとした歩幅で、こちらに歩いてくる人影。



凛としたその男性のシルエットに、あたしは目が釘付けになった。




男にしては細身の華奢な体に、長い手足。

少し長めの黒髪は艶やかで、色白の肌がよく映えている。


サラサラの前髪の隙間から覗く瞳は、切れ長で鋭く輝く。



彼はピアノの前で一礼し、浅くイスに腰掛けた。



……その一瞬、

透明の瞳が真っ直ぐにあたしを映し出した。



目が、合った……?


そう思ったけれど

ほんの一瞬のことで、あたしの勘違いかもしれない。



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