甘い旋律で狂わせて
“春の歌”

それはまるで春の木漏れ日を連想させる、とても優しくて希望に満ちた曲だった。


――そう思うと、あたしの好みというのは、大方先生の好みによってほとんどが形作られているんだと感じた。


本当に好きなのか。

それとも先生が好きだから、あたしも好きなのか。


よく、わからない。



「花音は暗い曲が苦手?」


「全部が苦手ってわけじゃないけど」



少しだけ躊躇いがちに言った。



「メンデルスゾーンなら、“春の歌”が好き」



――あたしがそう言った瞬間だった。

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