甘い旋律で狂わせて
ああ、やっぱりそうだ。


これは幻なんかじゃない。



奏でられたこの音色を

あたしは知っている……。



脈打つ生命を感じさせるような

愛おしくも懐かしい、その旋律。



伏せられた目の長い睫毛も、

時折天を仰ぎ、揺れる前髪も、

苦しげで魅惑的なその表情も、


流れるように鍵盤を叩く長い指先も……




「永都先生……」



その愛おしい姿に

いつのまにか、涙がこぼれていた。

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