甘い旋律で狂わせて
やがてワルツが終わり、彼はそっと目を開けた。


客が少なく閑散としたフロアーには、少なすぎる拍手が鳴り響いていた。


他の客は耳を傾けながらも、食事や会話に夢中で、

手を止めて聞き入っていたのはあたしだけだった。



すると、彼はゆっくりと視線をこちらに向け、あたしの目を見つめた。


ビクリと反応してしまうあたしをよそに、また視線を鍵盤へと戻した。


そして、そばに置かれたマイクを手に取り、

そっと赤い唇を開けた。



「こんばんは、ネオです」


低く穏やかな声が響いた。



ネオ……?

それがこの人の名前?




そうだよね……。

当たり前だ。


先生であるわけがない。


あたしは何を期待していたんだろう。


そんなことはありえないのに……。


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