甘い旋律で狂わせて
外見も仕草も瓜二つだ。

だけど、やっぱり永都先生じゃない。


先生はもっと、突き放したような物言いだった。

甘い言葉を決して吐かない、静かでどこか距離のある物言いだった。



だから、この人が先生であるはずなどない。



それなのに、心臓の音がうるさく響いて。


穏やかに見つめられるその眼差しに、

あたしは目が離せないでいた。



「ラ・カンパネラ。」


その綺麗な指の先を見つめながら、呟くように言ったあたしを見て

彼は目を細めて微笑んだ。



そして、コクリと頷きながら


そっと鍵盤に手を置いた。


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