甘い旋律で狂わせて
永都先生が好きで、よく弾いていた曲。

そして、あたしが弾くことを諦めた難曲。


あたしは確かめたかったのかもしれない。

彼がどんなふうにこの曲を弾くのか……。


どこかで期待していたのかもしれない。




高音から始まった音色が、儚げに響いた。


静まり返ったフロアーに、彼の奏でる音が流れるように堕ちてくる。


その哀愁を帯びた高音と低音とのコントラストに、耳が奪われる。




まるで本当に鐘≪La Campanella≫の音のよう……。




儚げで

哀しくて

美しく

華麗で妖艶………



自然に、涙がこぼれ落ちた。


先生を思い出さずにはいられなかった。

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