甘い旋律で狂わせて
あたしは曲が終わったのにさえ気づかず、その余韻に目を伏せたまま浸っていた。


瞼の裏に、先生がいた。


先生と同じ音色だった。



「どうぞ」


急に耳元で響いたやわらかな声に、ハッとしてあたしは目を開けた。


すぐ目の前に、彼がハンカチを持ちながら立っていた。



「女の子を泣かせちゃったね」


少し困ったように笑いながら、あたしに白いハンカチを手渡す。


あたしはそれを、静かに受け取った。



「どんな鐘の音が聴こえたの?」


耳をくすぐるような甘い声が、あたしの脳内を痺れさせる。



「懐かしくて、哀しい音色」


先生を想いながら、彼の瞳の奥を見つめた。



もしかして……幻なんかじゃないかもしれない。


この音色に、偽りなどない。

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