甘い旋律で狂わせて
「いつ心臓がダメになってもおかしくないと、医師に宣告されたわ。だけど、ネオは決してピアノを弾くのをやめなかった」



自分の運命に逆らうように

自分の命の全てを注ぎ込むように


以前よりいっそう、ピアノの練習に熱を入れた。



目前のコンクールを目指して


光溢れた場所を夢見て



ピアニストとしての栄光を手に入れるために



ネオは、ピアノを弾き続けようとした。





「でもね、母はそんなネオにピアノをやめさせたの。

ネオは命を懸けてでも、ピアニストになりたいと言い張ったけれど。母は何よりも、ネオの命が一番大切だったから」


薫さんはリビングの窓際に置かれたグランドピアノを、悲しげに見つめながら言った。



カバーの掛けられたそのピアノは、長い間誰の手にも触れられていないようで、少し埃で白くなっている。


揺れるカーテンから覗く外の景色を眺めるだけのピアノの姿は、なんだか孤独の淵に佇む人の姿を思わせた。

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