甘い旋律で狂わせて
「その頃からだった。永都のピアノの才能が、急に開花し始めたのは」


薫さんはそう言って、窓際のピアノを指差した。



「あのピアノでね、永都が猛練習していたのをよく覚えてるわ。少しでもネオに近づきたいと思ってたんでしょう。

あの子は、才能溢れるネオにいつも憧れていたし、ネオが表舞台に立てなくなったことを誰よりも悲しがっていた。だから、自分がネオの代わりに夢を叶えようと思っていたのかもしれない。

もしかしたら、悲しみに暮れる母親のために、自分がネオになるつもりでいたのかもしれない。

弾き方も、音色も、仕草も何もかも……まるで、完全なるネオのコピーのようだった」



薫さんの言葉に、あたしはハッと目を見開いた。




あたしは……ネオを初めて見たときに、永都先生とそっくりだと思ってた。




――でも、それは違うんだ。




“完全なるコピー”だったのは




ネオじゃなくて




永都先生だったんだ。
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