甘い旋律で狂わせて
「送らなくても大丈夫?」

「ええ、大丈夫です」

「そう……。じゃあ、気をつけてね」



薫さんはまだ話足りなかったのか、何か言いたげだったけれど。


あたしにはそんな余裕がなかった。



喉の奥が詰まるほどに、たくさんの感情が胸を押しつけていく。


あたしは胸を押さえながら、薫さんに笑顔を向けた。



「お母様は、ずっと療養所に?」


「ええ。永都が亡くなってからずっと。あまりにショックだったようで、精神を病んだの」


「そうですか……。よろしく、お伝えください」


「ええ、ありがとう」



あたしは軽く頭をさげ、この赤い瓦屋根の家を後にした。

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