甘い旋律で狂わせて
***

会社帰りの夜の街は、平日にも関わらず人で溢れている。


駅前の表通りを歩くあたしと遥は、通り沿いにある雑居ビルの前で立ち止まった。


「あった、ここだわ。」


遥は、Bar STINGと書かれた看板を指さした。


あたしたちは顔を見合わせ、ビルの地下の店内へと入った。



扉を開けると、聞こえてきたのは穏やかなジャズの演奏。


店の雰囲気はとてもレトロで、大人びていた。


白い大理石の高級感あふれるカウンターに、暖色のレンガを基調とした壁。


薄暗い照明が、ゆったりと落ち着ける雰囲気を醸し出している。



「素敵なバーね。」


遥は目を輝かせながら、長いカウンターのゆったりとしたイスに腰掛けた。


フロアーにいくつかあるテーブルでは客が和やかに談笑しているけれど、決して騒ぐことはしない。


フロアーの真ん中には、やけに目立つ大きなグランドピアノが、その存在感を示していた。


大人っぽくて、静かにくつろげるバーだった。

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