+チック、
私は服装を整えると、静かにトンネルに足を踏み入れた。

トンネルの中はなま暖かかった。

コツン、コツンと言う自分の足音がよく響く、ペンキ塗りの壁は手を触れると、結露で手袋がびしょりと塗れた。
深呼吸すると独特の空気が私の中に入ってきて、全身を擽った。何とも言えないこそばゆさに私の頬は綻んだ。

できるだけ足音を立てないように、出口に向かうと出口のすぐ側に彼はいた。

頂上近くのこのトンネルの中はけしてカーブでも急な坂でも無いのでとても見通しがいい。
それに薄暗いトンネルの中で携帯画面の発光はとても目立つ。画面に照らされた彼の顔はとても不安そうだった。

私が返事をしなかったので、とても心配している様だ。

それを見てついにクスリと笑ってしまった。
その笑い声は壁に反響してトンネル全体に響いてしまった。

それを聞いた彼はパッと画面から目を離して、こちらを見た。

「また、絡まれてるのかと思って心配したじゃないか」

彼は少し怒った様にそう言って、私の方に手を伸ばした。私は小走りで彼の元に駆け寄った。

「無事でよかった」
彼は微笑んでそう言うと私の頭にゆっくりと手を置いた。

手を置かれた瞬間、ボッと自分の頬が熱くなるのを感じた。
でも、この暗闇ではそんな変化は彼には見えないだろう…私は心の中でこの暗闇に感謝した。

彼は薄暗い中、私の服装を見ると少し呆れたように口を開いた。

「そのカッコ寒くない?それに厚底の靴で山登りなんて・・・膝擦りむいてるし、何度か転んだんでしょ」

彼にそう言われて私は「ふふっ」と笑って見せた。その笑いはまた壁に反響して、トンネルの中に響きわたった。

私は少し背伸びをして、先ほどの濡れた手袋で彼の頬に触れながら
「女の子はね、綺麗に見せるためならどんなことでも我慢できちゃうんだよ」
と言ってクルリと回って見せた。

それを聞いた彼も「ふっ」と笑って「やっぱり女の子には勝てないな」と言って私の頭をぐりぐりと撫でた。
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