+チック、
私は少し子供扱いされた気がして、頬を膨らませつつ足下に花束を置いて彼の隣に並んで、壁に背中を付けた。

壁はさっきと同じくヒヤリと冷たかったがここはコンクリートがむき出しになっていて濡れる事は無かった。

彼は足下から缶ジュースを手に取ると微笑んで「君はミルクティーだよね。僕は微糖コーヒー」と言って私に手渡した。

私はお礼を言うとその缶を握りしめて、決して口を付けることはしなかった。
彼は軽快な音を立てて美味しそうにコーヒーを飲んだ。

それから私達は他愛も無い話を始めた。

最近の天気の事や自分達の身の回りの話、面白いと思った景色の話、昨日こんな形の雲を見たとか、そんな他人が聞いても何の面白味もない話。それでも私はこの時間がとても好きだ。
いつまでもこの時間が続けば良いのにといつも強く願う。

時折、私達の前を通り抜ける車やバイクのライトは陰を壁に焼き付け、暗闇に慣れた私達の目を潰していく。それでも、会話に支障がなければ私達は互いにそれを気にすることはなかった。

それに今日は運が良い事にどうやら肝試しに来る者の姿はなかった。

なので私達はゆっくりと会話をする事ができた。

トンネルの入り口の方からは明るい月の光が差し込んでいた。私はこの場所に居るときは時間を確認する事はしない。だから多分もう随分と遅い時間なのだろう。

彼との会話は底を尽きることがない。

彼となら何時間でもいつまででも話を続ける事ができる。

私達の話はトンネル一杯に広がった。

そう、今ここには私達の会話しかない。

そんな空間は私を幸せで包んだ。
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