だって、こんなにも君が好きだから。
ぎり…っ
ドォン!
風をきり、飛んだ矢は的の中心から大きく外れた位置に突き刺さった。
…またか。
不調に、思わず眉を潜めた。
これで8本目の矢だが、全て中心には当たらなかった。
こんなに不調とは、何故だ。
苛立つ私の頭に、急に昨日の平良木 龍の姿が浮かんだ。
―――どうしてそんなに頑ななの?―――
――――もっとさ、柔軟になろうよ。―――
…馬鹿にして。
貴様に、何がわかる!!
再び、弓を引き絞る。
そうだ、いつものように精神を研ぎ澄ませ。
聞こえるのは、自分の鼓動。
見えるは、前の的。
私には、何もない!!
「…紫っ乃ちゃぁぁんっ!がんばれー!!」
ドォン!
放った矢は、今度は見事に中心にと当たった。
ホッとしつつ、あの声はあいつだと怒りが滲みでてくる。
聞こえてきたその声の方を私は睨み付けた。
「また貴様か、ひら…」
しかし、睨み付けたその先に、あいつはいなかった。
「どうしたんですか、紫乃さま?」
そう尋ねてきたのは、同じ学年の弓道部員。
「いや、なんでもない…。」
「それにしても、今日は来ませんねぇ。」
「来ないって、誰が?」
「平良木くんですよ。いつもならそこで騒いでいるじゃないですか。」
クスッ、とその子は可笑しそうに笑った。
「いつも、楽しそうですよね。」
「あいつはいつだってヘラヘラしているぞ。」