みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
そこで虚を突かれた私は目を丸くしながらも、臆することなく彼を見つめた。
「ま、くら営業……?」
反芻してようやく気づいた呼び出しの真の理由。たちまち顔も強ばっていく。
「そうだろ?」と端的に言う彼は、ついに動かしていた手を休めて冷笑する。
その威力を前にして身震いする身体。それでもズキズキと痛む心を奮い立たせ、社長をキッと睨み返す。
「断じて違います!」
「何てことないだろうが、キミひとりの行動が」
「分かってます!」
私のあるまじき態度に苛立ちを抑えているのだろう。はぁ……と、彼はあからさまな溜め息を吐き出した。
「今後もそうやって、誘われれば私的番号を安易に伝えるつもりだろ?
俺の知らないところで、秘書に勝手な振る舞いをされるのは非常に不愉快だ」
「……しゃ、社長もご存知のはずですよね?
里村社長には先日、食事に誘われただけです」
「それならなぜホテルで落ち合う必要がある?」
「お言葉ですが、勘ぐりすぎではありませんか?
高階専務とのお約束もホテルで」
「あくまで同行だった。違うのか?」
「それは、」
淀みなく向けられるその目と詰問には、侮蔑さまで含んでいるように映った。
ここで視線を逸らせば、やましいと思われるに違いない。上手く呼吸も出来ない状況で、背中に冷たいものが流れるのを感じた。
今なお薄墨色の瞳が映しているのはきっと、分別なき“ふしだらな女”なのだろう。