みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


ちなみに士(さむらい)さんが当社へ来た際、なんと彼らの元勤務先の優秀な部下まで根こそぎヘッド・ハンティングしたとか。


だから商社といっても至るところに顔が効き、様々なルートも持ち合わせているらしい…。



「ほら俺は昔から、最後のプッシュくらいしか出来ないんで」

「その笑みでどんだけ女泣かせて来たことか」

「先輩ほどじゃありませんよ」

現在こうして当社の誇るべき部署を構築したのは、いま穏やかかつ綺麗に笑うヘンタイ社長。


これらの真実をあれこれ聞いた時にはさすがに、…一言でいえば彼という存在を恐ろしく思った。


「ハハッ、役員会で承認取れってことか?」

「さすがに話がお早いです」

「まあChainの予算とプランに勝てるようなところは無いだろう。

そもそも今回のプロジェクトは、俺が先頭切っているものだ。もはや何も言わないな――勝てないプランを打ち出す者に、社長の任は務まらない」

ソファへとさらに背を凭れた里村社長の発言に、やはり大物は違うとかんしんするばかり。ただ、この姿勢を取れるほどの苦労は想像し難いけども。



「同感です、俺はまだまだ若輩者ですけどね。でも、前向きなお言葉ありがとうございます。
――ところで先輩…、今秋ドイツでセレモニーを行うと伺いましたけど?」


「ああ、もう聞いてんのか?さすが情報仕入れが素早いな。
その前に東京でレセプションがある――ぜひ来て貰えると嬉しいな、そちらの“秘書さん”に」


「…え、私でしょうか?」

「うん、美人だね」

どうやら商談は上手くいった、とホッと肩を撫で下ろしていたのも束の間。なぜこの場面で?と問いたくなるほど、里村社長の笑みに目をパチクリさせた。


不意に向けられた瞳の色が、まるでハンターのように感じたのは気のせいだろうか…?


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