みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


動揺してはいけない、と強ばりかけの口元を慌てて緩める。


「どなたにでしょうか?」

「さあね」と里村氏はサラリと質問を流し、一笑に付してしまった。


その適当さに救われたというべきか、ホッとしたのが正直なところだ。


――聞かない方が良いと、心の内では思っていたから。その一切を包み隠すには、ただ微笑を浮かべるだけ。


何を考えているのか読めず、喰えないオトコは攻撃すべからず。これこそ経験がものを言う。


「ところで」

「はい」

膠着状態を打破したのは、優雅にグラスに入った紹興酒を飲んだ彼だった。


こちらの考えはお見通しと言わんばかりの表情に、内心でチッと舌打ちしておく。



「突然だけど、俺とゲームしない?」

そのグラスを空けるとテーブルへ置き、ジッと私を窺ってきた。


「は?ゲームでしょうか?
あいにく私には、社長とギャンブル出来るような資金はございませんが」

脈絡もない唐突すぎるそのお誘いには、ふふっと笑い軽やかに返しておく。


「金?そんなの要らないよ」

「どういうことでしょう?」

聞き返せば軽く鼻で笑った里村氏は、ここでも性格の悪さが滲み出ていた。


「もちろん、金なんかより良いモノがあるから」


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