みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


疑問に感じながらも、口角を上げて微笑みを絶やさないのが大人のモットー。
どんな言葉を受けても顔に出すなどもっての外、とある身内に何度も叱咤されて来た。


ただし、そんな明言より現場で鍛えられて、この平常心が身に着いたと思う。
まあ不本意ながらも、嘘っぱちな言葉を並べ立てる男のお陰とは皮肉なものだ。



「顔は手遅れですから、せめて内面の綺麗さを研磨する日々です」

「ハハッ、相当コイツに鍛えられてるね――いいな。気取ってないし」

とはいえ、ちょっとお待ち頂きたい。食材でいえば私は、メインディッシュやデザートの付け合わせと等しい脇役レベルの女ですから。


「僭越ながら、この外見で気取る必要は一切ございませんわ」

この人もやはり“同類”なのか、と結論に達した瞬間。早くこのテの会話を寸断させようと、表情を一切消して真顔で答えたというのになぜだ。


「知ってる?メガネも性欲を駆り立てるってね」

「ふふっ、ご冗談がすぎますわ」


「どう?今日の夜、2人で討論交わさない?」

討論を交わすイコール、セックスのお誘い。…分かり易すぎるその意味に気づかないほど、これでも経験は少なくない私。


「まあ、議題はメガネの今後について、でしょうか?」


「ああそうだな。――どこでメガネを外すと一番そそられるか、かな」


この室内に居る社長2名は、エロ同類項で間違いない――どこまで淫靡ムードを引っ張るつもりかと呆れたくなる。


それでも外角ストレートの際どいお誘いは、男の色香の強い里村社長ならではと感心するけど、ね。



あえて“男の眼差し”を向けて頂かなくても、貴方の傍で仕えておみえのメイン・レベルの女性がスタンバイ済みではないか。


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