みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
仕事が休みの土曜の夜――お決まり、居酒屋・ソレイユは今日も賑わっている。
久しぶりに私たちは3人で、指定席となっているボックス席で飲んでいた。
「ほら、ジョッキ空いてる。晴ちゃんに頼んでこいよ」
そう言って、ふてくされ気味の楓を席から立たせたのは隣の信ちゃん。
「……刺身も頼んでくる」
ジョッキを持ってカウンターへ向かった彼に、私と信ちゃんは見合って微笑んだ。
ほんとうにデカわんこは見た目以上に素直で可愛い、とそれぞれ思いながら。
「信ちゃん、今度はいつ出発?」
「今度?次は来週末からベルギー」
「えー!ほんとタフだよねぇ。……デカわんこはまた寂しがるな」
さきほどから私が信ちゃんと呼ぶ彼は、伏見 信耶(しんや)くん。
楓や私より2歳上で、逆三角形の逞しいボディを持つ褐色肌のスポーツマンだ。
「その時は慰めてやってよ」
「でも楓、私じゃ勃たないよ?」
「だろうね」
「いやいや、信ちゃんも存外に失礼な人だね」
「嬉しいもん。失言は許して」
つまりこの人が、楓のパートナーだ。……いかつい外見とは違って、内面は穏やかな天然だったりするが。
「でも、あかねえも仕事大変みたいだね」
私に付き合って焼酎グラスを傾けたのち、ジッと見つめてくる彼に一驚だ。
「……ううん。ぶっちゃければ私、小間使いだし」
苦笑して首を一度振ると、すっかり冷えたお湯割り焼酎に少し口をつけた。