みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


そもそも大手企業の海外事業部で飛び回って働く人に、私なんぞが大変と言えるはずもない。


焼酎グラスをテーブルへ置き、ほんの少し俯いた。すると、褐色肌に映える真っ黒な目で顔を覗き込まれる。


「なに?」

「よく言うなぁと思って。ほら、秘書の存在がなければボスの仕事は成り立たない。会社の重役をサポートするって大変な仕事に映るからさ。
あかねえはざっくばらんだけど、実は気遣い出来るから合ってる気がするよ?」


「そんなことないけど。でも、何か救われた、……ありがとね」

「いえいえ。グチくらいは聞けるし、何かあった時は遠慮なく呼んでよ」

「んー、でも信ちゃん結構日本にいないしなぁ。あ、デカわんこをサンドバッグに?」

「それは俺もヤだなぁ。その時は一回、デカわんこに癒されてみたら?」

「げっ!毒舌オンパレードの楓と?あり得ない!」

ちなみに彼は私を、“あかねえ”と呼ぶが、あかねと姉御肌からきているらしい。……もはや晴のあかねんと同等だ。



「――毒舌なのは、あかねんでしょうが。
目を離すとすぐ楓くんに失礼なこと言うんだからー。ねえ?」

「でしょー?ほんと晴ちゃんは優しいよね。
芋焼酎にぞっこんなアラサーオヤジ女と大違い」

「ちょっと楓!つーか信ちゃん、静かに笑うな!」

料理とビールジョッキをそれぞれ持ち、顔を見合わせた晴と楓に頬を膨らませる。


「ごめんごめん」

「謝り方に誠意が感じられないっての」

バトルを始めたその傍らで、クククッと笑っている信ちゃんも厳しく一瞥した。


「刺々しいところはお局決定だし。なあ信耶?」

「えっ、俺に振るなよ」


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