みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
信ちゃんはしまったという顔で私を見てくるから、思いきりそっぽを向いておく。
「あかねんは口の悪さを直せば良いのに、中身で」
「……ていうか、晴。愛しのひまわりんは?」
「今日はばぁばと映画行って、そのまま寝てるよー。……って、あかねんが来たときに言ったでしょう?」
“まったくもう”と、手にしていた物をテーブルへ置く彼女に昔から弱い私は、バツの悪さで肩を竦めた。
「老化著しい年頃なんだよ、朱祢だけ」
「アンタもタメだっての!」
「精神年齢は朱祢より若いし。あ、体力年齢もね」
しかし、今日はことごとく余計な揶揄が入り、再びその男を睨んで口を開く。
「もう、信ちゃん!デカわんこの躾がなってない!」
「あ、うんー……」とどっちつかずの返答に、ジーっと彼に非難の目を送る。
「あかねんは口とときどき態度も悪いわよー」
「ダメだって晴ちゃん。言い方が優しすぎて効果ないから」
「かーえーでー!!」
晴の教育的指導はご尤なのだが、ここでも火種をまき散らす男の方がタチは悪いはずだ。
「ほら、せっかくお湯も持って来てやったのに、冷めるよ?」
「……じゃあ、ひとまず一杯飲む。……これは、ありがと」
向かいの席に再び座った楓の手から、お湯の入った陶器をおずおず受け取る。
そんな私の態度を見て、晴はにっこり笑ったあとカウンターへ戻っていった。
「単純すぎ」
「は?ビール馬鹿が言うの?」
「そうだ、ビール工場見学に行きたい。行こう、決定」
「何なの、その脈絡の無さは」
結局、懲りもせずに言い合う私と楓。でも、その度合いが鎮静するのは、彼の自由さゆえだろう。