みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
逢瀬、振れる。
週明けともあり、日頃は憂欝な月曜日。――朝から社長が支社の査察で不在のため、じつに穏やかな心で出社した私。
さらに田中チーフも同行による不在ともあり、秘書課内は終始穏やかムードが蔓延していた。
それがずっと続けば平穏に過ごせるのだが、……人生ってそうそう甘くない。
2日後の水曜の朝に出社した時、私は秘書室に当の2人の姿を目にしてしまう。
清々しさゼロの険しい顔で打ち合わせるその光景に、ゲッと思ったのは仕方ないことだろう。
「おはようございます」
「ああ、おはよ」
「おはよう」
先にぶっきらぼうに短く返したのがチーフ。次に嘘っぱちの笑みを浮かべ、淡々と言ったのが社長だ。
作業時、視線を合わせないのが常の彼ら。それを知り得ていても、ひと声かけるのは緊張した。
俯き加減で給湯室へと向かう途中、肩すかしを食らった気分。――所詮、私はその程度の存在なのだ。
小さく自嘲して手早くコーヒーを淹れると、秘書室へそれを持って戻る。
「どうぞ」
テーブル席で向き合う2人に、熱いコーヒーを出そうとした瞬間。
「折角だけど俺はもう戻るから、社長室で欲しい」
「っ、」
その声でつい、社長の顔を見つめてしまう。薄墨色の眼差しに、ドクンと鼓動が跳ねた。