みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
ラッキーと言いながら、テーブルへそれを一旦置く彼女。そして給湯室へ向かい、小走りで戻ってきた。
「基本スティック2本よねー」
「えっ」
真っ白な顆粒が溶け、すっかり苦さの失われたコーヒー。ブラック派の私はもちろん、同意したくない。
その時デスクから、はぁ……とわざとらしく吐き出された溜め息が聞こえた。
「生活習慣病まっしぐらだな」
「うるさいわね!」
「朝からよく喚く」
フッと鼻で笑い、視線を上げた田中チーフ。その先には、怒り心頭の荒木さんが仁王立ちしている。
「清々しい朝から、いちいち人を非難できるわね。この冷血漢!」
「暑苦しい。静かにしろ」
「あー!あんたのせいでコーヒーがまずくなる!」
「それは此方の台詞だ」
「固っ苦しいのよ!堅物が!」
そっぽを向いた彼女は大股でデスクへ戻るも、温度差のあるバトルを始めた2人に苦笑い。
その原因は私が作ったんだけども。――ついでに私とデカわんこの言い合いは、生やさしいと思えるよ。
この戦いに巻き込まれるのは勘弁と、後ずさりながら部屋を退出して階段へ向かった。
朝のラッシュ時、エレベーターを待つより階段の方が断然早く辿り着けるからだ。
窓から差し込む朝の目映い光に時おり目を細めつつ、私は足早に歩を進めた。