みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
ほどよいゆる巻きをハーフアップにし、モデルと見間違うようなスリム体型でスーツに身を包むその人。
アジアン・ビューティな顔立ちがどことなくクールな印象を与えるけど、それより何より、…密かに心配をしてしまう。
というのも。彼女のボスである里村社長より、“かなり問題物件”の目新しいオトコに熱視線を送ってみえるため。
フランクなお付き合いでも構わない、と秘書内でも評価されているが――あいにく私はそんなオトコ、ぜったいにご勘弁だ。
「ねえ間宮さん、聞いてた?」
それでもクール秘書さんは、里村社長が地味な私を構うことは不愉快のようで。
時おりジロリと敵対心ある眼差しを向けるとは…、イイ女は常々お忙しいとここでも納得。
これは嫌味でも何でもなく、アチラコチラと追い掛ける姿勢は素晴らしいと思うがため。
むしろ彼女へ“一手に”お引き受けいただけないかと、この際どさくさ紛れで言ってしまおうか…。
「ええ、もちろんでございます。ちなみに本日は…」
ただメガネにまつわる誘いの返事を急かす方に、じつは疲弊していることは億尾に出さず。これはビジネス・トークだ、と言い聞かせて微笑み返すのが正解。
「先輩の希望する“メガネ男”を招集しますよ」
「…、」
そこで横やりが入ったため、一瞬であとに続くはずの言葉を失った。――もちろん里村社長に、上手くNOを示すつもりであったが。
なぜ耳慣れているバリトンの声音は、こんな時に限って私の心を落ち着けるのだろうと悔しくなる。