みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
「始業時間まであと何分だ?」
そう問われて、いま口にしたことと朝の脳天気な行動のどちらもに後悔した。
早く目が覚めた分ラッシュを免れると、いつもより1時間も早く出社していたのだ。
この部屋に来た時間――つまり本来の始業時間まで、あと30分強あるということ。
「誘いは断れないって、いい加減に分かれ」
苛立ちの含んだその言い方に、彼の所望する着せ替え人形らしく閉口した。
ストライプ・グレーのジャケットに手がかかり、ボタンがひとつずつ外されていく。
「……なぜ、」
「まだ言う?――それってつまり、メガネはもういらない?」
一番の弱みで完全に屈した私は、止まらないその手を阻む最後の力も失せてしまった。
不敵に口角を上げた彼から目を逸らす。今度はプツプツと、シャツのボタンを3つ開けられた。
外気に触れた胸元に、押しつけられる唇と指先の感触がひどくくすぐったい。
唇をキュッと噛み、背筋を突き抜けるような快感に耐える。すると、首筋をペロリ、と舐めて小さく笑った社長。
「そこまで声我慢しなくていい」
「なっ、あん」
その理由を尋ねようと口を開くより早く、ブラジャーを押し上げて胸の頂を吸われた。
不意打ちの弱さを知り得ているこの男を、ここでも嫌いになりきれない自分がいる。