みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
胸から顔を上げた男は、律儀にもジャケットとシャツをテーブルに置いた。
「社長室の鍵と、念のためここも鍵かけたから誰も来ないよ。
少なくとも、朱祢の声が響けば知らないけどね」
「声なんか、出さないわ」
語調を強めて、薄墨色の眼差しを真っ直ぐ見つめる。……強がる以外、頼れるモノは何もなかった。
「どうかな?」とやはり小さく笑い、社長は最後に自らのシャツを脱ぎ捨てる。
「あ、シワが」
「俺はスペアがあるからいい。それよりスカートを気にしたら?」
気遣うセリフを口にした彼によって、スカートとストッキングを脱がされるこの矛盾。
素肌の感触をなぞるように触れつつ、いつもより性急な手つきで奥へと滑り込んでくる。
「あっ、」
「もう濡れてる。もしかして、このシチュエーションだけで感じた?」
電気どころか日のひかりが差し込む朝。それがやけに羞恥を誘い、思わず目を逸らしてしまう。
「ちがっ、あっ」
カッと頬に朱が走ったのが分かる。否定しようとしても、敏感なところを擦られるだけ。
「嘘吐く時にいつも目が大きくなること、知らないだろ?」
「きら、いよ」
「その男の指で感じる女が言う科白?」
妖しい笑い声を耳元で囁きながら、ランジェリーの脇から指を差し込んできた。
「んっ、」
「――悪いけど時間勝負だから、遊びはここまで」