みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
それを誤魔化すように微笑むと、再び私は菱本の品に舌鼓を打つことに。
すると前方で嘆息をつかれてしまい、室内は気まずい雰囲気へと変わっていく。
「この前のことは、もう咎めない」
「そのような行動は一切しておりませんが」
まるでそうとは聞こえない発言。私は淡々と返すと彼の目を真っ直ぐ見つめた。
そもそも咎められるべきはこちらより、貴方の日頃の生活態度ではないのか?
「よく言う。朱祢の方が罪深いよ」
薄墨色の瞳はジッと私を捉えたまま、クスリと妖しさを含む笑みを浮かべる。
「それは、そうかもしれませんね。
ですが、社長。今は食事に集中しませんか?折角のお料理が不味くなります」
「ああ、分かった」
「ありがとうございます」
苦し紛れの提案にしぶしぶだけど彼は頷き、ようやく冷戦状態に落ち着いた。
それでも時おり疑るような視線を向けられ、堪えかねた私は暫くして箸を休めることに。
部屋中にこの不穏な空気を蔓延させた当の本人は、悪びれた様子もないのが問題だろう。
苛立ちを抑えるためにひと息つく。そして正面を見れば、すぐに目と目が合った。
「……その後は連絡もありませんよ。よくご存知では?」
これ以上いくら叩かれようが、埃すらひとつも出ないと言わんばかりに告げる。
「ふーん、俺は知らないけど?
里村さんとはプライベートで頻繁に会う間柄じゃないしね。――朱祢と違って」