みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
ここでも嫌味混じりの物言いをされた。頬杖をつきながら今も疑る彼は、表情の変化を探っているようだ。
4席の小さなダイニングテーブルは、異様なほどの緊張感が四方を覆っていた。
「だから!それは私も同じですけど?
いい加減はっきり言うけど、二度と食事はしない。
私からすれば、それくらい不快な時間だったってことよ。――ここまで言えば満足なわけ?」
ここでも何を言おうが信じて貰えず。嫌疑を向けられることへの苛立ちで口調も変わった。
「そうだな」
「これ以上、無意味な詮索は止めて貰えませんか?」
「――じゃあ、俺とは?」
フェイントを仕掛けられたと同じ問いで、今度はグッと答えに詰まってしまう。
そんな私を見る薄墨色の眼差しが、俄かに真剣な色をしているから余計だった。
「……少なくとも、菱本の料理が絶品だと教えて頂きました」
どうにか振り切ろうとつっけんどんに返せば、クスリと軽く一笑された。
「つまり、もっと美味しい料理が食べたい?」
「幸せな方ですね」
「朱祢が言う?」
「勝手にどうぞ」
「照れるとエロい顔になるし」
「食事中くらい静かにお願いします」
「イイじゃん。プライベートなんだし」
今はプライベートだ。――社長の発した言葉に、何の意味があるという?
そもそも、これを私的と表現するのが間違いだ。彼にとっては仕事の延長線でしかないのだから。
次々と料理を平らげていく私の姿に、彼の機嫌も良くなった。そうして30分後には、食事を終えて直ぐ帰宅した彼。
その時にはわだかまりも幾らか取れ、嬉しかった半面。その度に、里村社長との件が脳裏を過ぎっていた。
だから私は帰り際、彼の広い背中へ義務的に礼を伝えるのが精一杯だった……。