みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
いつものように静かに秘書室のドアを開けて、お決まりの挨拶をする私。
その刹那、荒木さんが自席を立って、もの凄い形相で駆けてこちらへやって来る。
「ちょっとどうしたの!?」
対峙した直後に口を開いた荒木さんは、息を上げながら興奮している。
迷惑な声を轟かせたことよりも、私は自分のセリフを取られた気分に陥った。
「どうかなさいました?」
しかし、今の姿は秘書の間宮だ。内心を見せず、笑顔で尋ねるのもわけない。
すると上品なネイルの施された指先が勢い良く指さす方を見れば、冒頭の発言に納得。
「めっちゃ綺麗じゃない!?」
前方から聞こえる大きな声が気にならないほど、ただジッと一点を凝視していた。
そこにはひとつの花束が置かれているのだ。――いま戻ったばかりの私のデスク上に。
「……あれは一体、」
唖然としながらも、視線を荒木さんへと戻す。そして、不在だった約20分間の経緯を尋ねる。
「――里村社長が世話になったと、間宮さん宛に贈ってきた。君が休憩を取った5分後に」
しかし此処でも予想外に、最も遠いデスクからチーフの淡々とした声が室内に響く。
「ありがとうございます」
「いや、“それ”では全く話にならないからな」