みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
そして向かいのクール秘書さん。お願いだから、ここで睨みを利かせないで頂きたい。
「なにオマエの?」
どことなく不満げに目を細めた里村社長の発言に、“断じて違う!”と叫びたいのは山々だが我慢した。
「どうなんですかねえ、…間宮さん?」
クスリと小さく笑った男が足を組み替えたため、レザー・ソファがギシリと音を立てる。
「ふふ…、秘書と誤解を受けては、社長の“名”に傷が付きますわ」
そうして端正な顔を向けて尋ねるものだから、秘書スマイルを嫌味混じりで返すくらい許されるはずだ。
はあ?悠長に聞く暇があったら、断固否定しておきなさいよ。
そもそも分かってて嫌味を投げ掛けて来る、アンタが大嫌い。
――なんて罵倒しなかっただけ大人になったものだ、とムリヤリ心に収めているのだから。
「間宮さんも大変だ」
「とんでもございません。私は第2秘書でございますから、」
「それは勿体ない。飽きたら俺のところに来ない?」
笑いながら労って下さる里村社長には感謝だけど、…その隣でクール秘書さんが恐ろしい顔つきに変化した。
「お気持ちだけ、ありがたく頂戴いたします」
いやいや。クール秘書さんと違って、色恋沙汰での揉めゴトは大の苦手である。
という訳で、いつでもメンドウなことに関わりたくない人種は、すべてビジネス・スマイルで片づけておく。
隣のヘンタイ社長の元で我慢しつつ働きながら、インテリ女と周囲に言われている方がどれだけマシか。
そんな女子力希薄な女の意思を無視して、妙なトライアングルへと引きずり込まないで欲しいのだ。