みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
社長と関係を持った瞬間から、写真の映る穢れのない笑顔を見られなくなっていた私。
ゴシック調の可愛らしい写真立てを、コトリと音を立て静かにフローリングへと置く。
このままでは誰のためにもならない。……社長が何も知らないうちに、早く離れるべきだ。
ただそう考えると、キリリと胸が痛い。みだりなこの想いが、社長と離れ難くさせるのだろう。
会えば何度でも執拗に私を抱く彼にイヤだと言う度、相対する愛しさを覚えていた。
不確かな気持ちでセックスに酔っているだけだから。セフレ関係解消しよう、と簡単に離れられたら楽なのに。
彼の幸せを望めば望むほど、私がその傍にありたいと願ってしまうのだ。
――自分が欲深きオンナだったことを、いまこの瞬間分かってしまった。
そこでフッと、泣きながら自嘲する。そもそも私の煩わしい感情こそ、セックスには不要だったと。
社長にとって、私は“2人”の身代わりにもなれない中途半端なオンナだと知った今はもう……。
「ごめ、……ん」
気持ちとともに俯くほど、ポツリポツリと床へ落ちる涙の雫。目が潤んで見えない、彼女の美しい姿。
そもそも自分を雁字搦めにしたのは私だ。こんな時にだけ甘えるとか最低だ、と罵倒されたらどれだけ良いだろう?
今すぐに逃げ出したいけど、里村社長の件を片づける義務がある。ケリをつけるまで逃げない、これは勝負を受けた女の意地だ。
あと半年以内に、すべての決着をつけて去るから。それが終えれば、もう社長は大丈夫。――
しかし、決心を根底から揺るがす事態が起きるとは、この時の私が知る由もなかった……。