みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
彼は一体、どんな反応をするだろう?――送信して30分ほどはこのドアが開くかもしれない、とチラ見したり密かにドキドキしながら仕事をしていた。
だが現実は呆気なく時間も過ぎ去ってゆき、その分だけ弱気な心を打ち砕く。
彼に期待は無用だと痛感したに過ぎず、この関係に素直さは不要だと知らせているようだった……。
溜め息を吐きつつ席を立ち、背後に備えつけられた棚から必要なファイルを数冊手にする。
そして振り返れば、いつも見ている真っ白な壁が視界を埋め尽くす。――何故、離れられないのだろう?
会いたい、抱かれたい、傍にいたい、……そう思うほどに苦しむのに彼が欲しい。
目の前の壁を隔てた向こうで変わらず仕事するその男に、言えない想いが木霊するばかり。
――私はあと何度、彼から「あかね」と名を呼んで貰えるのだろうか?
* * *
その翌日は朝より、鬼と呼ぶに値するチーフから直々に指導を賜っていた。
ありがたいことに昼休憩を頂けたので、社食でかけそばを急いで啜って戻った。
ひっきりなしで掛かってくる電話対応の合間にスパルタ指導を受けるのだが、指導側のチーフこそ時間が無いに等しい人だ。
いまこの瞬間も、無理やり引き継ぎの時間に充てて下さっているから、スパルタだろうが目つきが恐ろしかろうが感謝していた。