みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
明らかに困惑した顔つきの彼女たちに対し、私は失礼を承知でその姿勢のまま頭を下げる。
「皆さん、お騒がせして申し訳ございません。その、大変恐れ入りますが、」
「うん、早退していいよ?“堅物”には私が説明しとくし」
“少しだけ時間を下さい”と告げるつもりが、苦笑まじりの荒木さんの大声に阻まれた。
「だって、“それ”だと仕事にならないよ」
「そうですね」と、こちらの状況を指さす彼女に一度頷く。
にっこり笑った権力あるチーフと対等に渡り歩く荒木さんには、怖いものはないのだろう。
近くの電話を手にすると、まずは楓の経理部、その次にチーフへ連絡を入れてくれた。
2度目の通話では、途中から喧嘩に発展していたが大丈夫か、と一抹の不安を残して……。
だが、なおも抱きついて離れないデカわんこ。私はもはや窮屈で仕方ない。
とにかく早くここから退散するため、楓の頬をペシンと軽く叩いた。
「……荷物だけ取って来て」
「……」
「スマホは?それに財布もいるでしょ?」
「……」
「一文無しで行くつもり?」
詰問すると無言で腕の力を強め、反抗してくる彼。その度、私は苦しさで呻き声を漏らす。