みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
そう感じていた私は社長2人の背中を見ながら、秘書さんと隣り合って進むものの。
明らかな敵意オーラを発する彼女が開口するわけもなく、ただ失礼のないように笑みを零していた。
ようやく辿り着いた先で止まれば、重役エレベーターはすぐに最上階へ到着。
その扉がスーッと静かに開いて乗り込んだ私たち2人は、もう此処までで大丈夫と見送りを丁重にお断りした。
「では、失礼します――先輩また個人的に、」
社長が乗り込んで一礼をすれば、その姿がチラリと視界に入って何とも複雑な気分を煽る。
早くこの扉を閉めて去ってしまいたいのは本音だが、“開”ボタンを押して社長2人の動向を窺わなければならない。
エレベーターの端に寄りながら正面に視線を移すと、今度はこちらを見据える漆黒の瞳に捉われた。
「まあ連絡が来るなら俺は、間宮さんが良い」
「ふふ、嬉しいご指名に感謝申し上げます」
指名とかキャバ嬢か私は、と思いながらも。ニコリ微笑を見せるのがビジネス・トーク。
「これ直結(プライベート)だから、…またね」
するとにっこり笑った里村社長がこちらへ身を乗り出し、その言葉とともに私のバッグの外ポケットに刷り込ませた名刺。
“えっ”と思わずエレベーターのボタンから指を放したため、満足気に手をひらひらと振る姿はドアが閉まり見えなくなった。